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MoMA漫ろ歩き
キュビスム

ピカソ、キュビスムの先駆者

Les Demoiselles d'Avignon (1907)
Pablo Picasso
「アヴィニョンの娘たち」(1907)
パブロ・ピカソ

「アヴィニョンの娘たち」は、バルセロナのアヴィニョ通りにあった売春宿の娼婦を描いた油彩作品です。女性の顔が古代イベリア彫刻やアフリカ彫刻風に描かれ、当時、ピカソが興味を抱いたプリミティブ・アート(※)の影響がうかがえます。
この作品は遠近法、色彩、写実性など、伝統的な絵画のルールを根本から無視した、キュビスムの発端となりました。
キュビスムとは三次元を二次元で表現する試みで、対象を分析・解体し幾何学的な単純な形にして再構築する表現方法です。解体した面を、従来の固定の単一視点ではなく、複数の違う視点で描写して一つに再構築するため、複雑で難解な形態になりえます。
当初、ピカソはこの作品をごく一部の友人に公開しましたが、大不評でした。ジュルジュ・ブラックもその一人でしたが、のちにキュビスムに理解を示し、ピカソとともにキュビスムの創始者になりました。
キュビスムの呼称は、1908年、ブラックの作品「レスタックの家々」を審査したマティスが、描かれた幾何学的な家を"キュブ”(立方体)と評したことが由来とされています。
この作品は1907年制作ですが、一般公開されたのは1916年7月のサロン・ドートンヌでした。当初「アヴィニョンの売春宿 Le Bordel d'Avignon」で出品予定だったが、不道徳的であるという理由で「アヴィニョンの娘たち」に改題されました。

(※)原始美術と訳され、先史時代の美術のほかに、未開部族社会の美術も含まれる。ブラック・アフリカの彫刻、オセアニアの原始民族の作品などがもつ単純明快、強烈な本能的造形表現は、印象派以降のフォービスム、キュビスム、表現主義などの20世紀の芸術運動に大きな影響を与えている。(小学館「日本大百科全書(ニッポニカ)」より 一部改編)


 

Three Musicians (1921)
Pablo Picasso
「三人の音楽家」(1921)
パブロ・ピカソ

三人の音楽家」は、総合的キュビスムに分類される作品です。
アヴィニョンの娘たち」に端を発したプロトキュビスムから、分析・解体が進み作品が難解になっていった分析的キュビスムを経て、1912年以降の総合的キュビスムに至ります。ピカソは、ジョルジュ・ブラックと共に、絵画にパピエ・コレまたはコラージュという技法を取り入れた先駆者でした。パピエ・コレ(「貼り付けた紙」の意)とは、紙片や木片などを画面に貼り付ける技法で、日本のちぎり絵や貼り絵もパピエ・コレの一種です。コラージュ(「糊付け」の意)は、パピエ・コレから発展し、新聞や雑誌の切り抜き・楽譜・写真・布・針金など、絵とは異質なさまざまな素材を貼り付ける技法を言います。異なる素材の組み合わせにより、新しいイメージや意外な効果が生まれました。コラージュはその後、写真・映画・文学・音楽などさまざまな分野で活用され、現在でも当たり前のように見ることができます。
「三人の音楽家」には、ハーレクイン、ピエロ、修道士が描かれています。ピカソと、当時のパリの芸術コミュニティに大きな影響力をもち、キュビスムの擁護者である詩人・批評家のギヨーム・アポリネール、キュビスムに貢献したフランスの詩人マックス・ジャコブであると言われています。3人は深い親交がありましたが、アポリネールは1918年にスペイン風邪で死去し、ジャコブはカトリックに改宗して1921年に修道院に入ってしまいます。


 

Girl before a Mirror (1932)
Pablo Picasso
「鏡の前の少女」(1932)
パブロ・ピカソ

鏡の前の少女」のモデルは、ピカソの愛人マリー・テレーズ・ウォルターです。
1927年、17歳のテレーズは、既婚者で子供もいた46歳のピカソに声をかけられたのがきっかけで、愛人関係になります。古代ギリシャ彫刻に理想の女性像を感じていたピカソにとって、マリー=テレーズはまさに理想の女性だったのでしょう。
作品のテレーズの顔は左右はっきりと分けて描かれています。右側の顔は薄いラベンダー色かピンク色で優しい表情で、一方、左側は緑のアイシャドウにオレンジの口紅・頬紅と、化粧をした顔で描かれています。これは、テレーズの二面性、そして彼女が性的に少女から大人へ成長する様を表現していると言われています。
さらに、鏡に映るテレーズの顔は黒い異形です。彼女の恐怖心や二人の行く末を暗示しているのかもしれません。(ちなみに、1935年に出産、ピカソとの関係が破局。1977年にテレーズは自宅で自殺しています。)


 

MoMAの作品紹介からちょっと脱線しますが、前述の「鏡の前の少女」を調べていて、ピカソの女性遍歴や彼女たちとピカソの作品との関わりに興味を持ちましたので、簡単に紹介します。

よろしければ、「ピカソと7人の女性」もご覧ください。

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